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スーパーカブでツーリング―100円あれば50kmも走る!


285 : 母ちゃんのカブ : 2009/12/13(日) 21:44:17 ID:fPl/GTwK
10年前の事。
俺が社会人になった年の秋の雨の日、母さんが48歳の若さで亡くなった。
病院に運ばれた時には既に全身にガンが転移していて手の打ちようが無く、
1ヶ月ともたなかった。

俺がまだ幼い頃、母さんは父さんの元から出ていき、
それ以来、女手ひとつで俺を育ててくれた。

自分の欲しい物は全て我慢して、
高校、車の免許、大学までも行かせてくれた。
俺は大学を卒業後、地元の小さな商社に就職し、
少し貯えも出きて、これから親孝行をと思った矢先の事だった。

母さんは、少しばかりの貯金と大きな風よけの付いたスーパーカブを
置きみやげにして俺の見えない処へ旅立ってしまった。


287 : 母ちゃんのカブ : 2009/12/13(日) 21:45:10 ID:fPl/GTwK
母さんは早朝は新聞配達、
日中はプレス工場で現場作業をしながら俺を育ててくれた。

新聞屋のおじさんの厚意で
「配達のバイトをしている間は配達用のスーパーカブを自由に使っていいよ」と、
母さんにバイクの鍵を与えてくれてた。
こうして50ccのバイクのカブは俺らの住む市営住宅駐輪場の一員になった。

母の仕事の給料日になると、荷台に座布団を2つ折りに縛り付けて作った
即席二人乗り用タンデムシートに乗せられて、2キロ先のスーパーへ出かけた。

そこですき焼きの具材とサイコロのキャラメルを買いに出かける事が
月に一度のささやかな贅沢であり、楽しいツーリングだった。

当時の母さんは俺が少しの微熱でも出そうものなら
背中におんぶ紐でグルグル巻きに縛り付け、
「たかし、もうすぐお医者さんだからね、がんばられ!」
「たかし!!がんばられ!!」
と、即席タンデムシートに乗せられ病院へ連れていってくれた。

自分はどんなに熱を出して咳き込んでいても病院に行かなかったくせに。


288 : 母ちゃんのカブ : 2009/12/13(日) 21:45:59 ID:fPl/GTwK
俺が就職した年の夏の終わり頃に、
母さんが仕事先で倒れ、市内で一番大きな病院に入院した。

医者には「どうして、こんなになるまで放って置いたんですか!」と怒られた。
相当痛みがあったはずなのに、ずっと我慢してたのは母さんらしかったが、
それが手遅れになった原因となってしまった。
しかも母さんは、お金が掛かるからとまともな治療を受けようとはしなかった。

母さんの見舞は仕事帰りに毎日行った。
入院して2週間目に母さんは、貯金を全て俺の口座へ移すこと、
困った時にはおじさん(母の弟)に頼ること、
早くお嫁さんを見つけて幸せになることを告げ、
そして、今まで一切口にする事がなかった父親の連絡先を教えてくれた。

まるで自分の死期を悟っているみたいだった。
「俺、もう帰るね。」
病室を出ようとすると何かを手渡された。

ハンカチを縫い合わせた母さん手作りのお守りだった。

母さんは精一杯の切ない笑顔を作っていた。
「これは、たかしが困った時に開けて読んでみなさい。」
俺は黙ってそれをポケットに押し込み、涙がこぼれない様に駆け足で病室を後にした。

その一週間後に母さんは帰らぬ人となった。


289: 母ちゃんのカブ : 2009/12/13(日) 21:46:56 ID:fPl/GTwK
慌ただしく葬儀が終わり、
職場へ復帰した俺は悲しみを忘れるため仕事に打ち込んだ。
そしてバス通勤を止め、母さんが毎朝運転していたカブに乗って出社した。
(カブは新聞屋のおじさんが形見にと譲ってくれた。)

今やこのカブだけが俺の家族であり、心の支えとなっていた。
仕事で新規契約が取れる度に、カブに話しかけ、丁寧に磨いた。
母さんをいたわる様に。

ある日の仕事帰りのこと。
俺はいつもの帰り道をいつもの様にカブに乗って帰っていた。

自宅まで3百メートルのガソリンスタンドのある交差点。
いつもの様に真っ直ぐ抜けるはずだったが、何か違和感を感じた。
すると左から急激に向かって来る白い乗用車が視界に入った。

「あれ?信号はこっちが青だろ?」
考えが追いつかないまま強烈な衝撃に襲われると同時に、
冷たいプールにとび込んだかの様に息が止まった。

はね飛ばされた俺はアスファルトの上を滑りながら
深い暗闇の中に吸い込まれていってしまった。

「このまま、死ぬんかな、、、ああ、、母さん、もうすぐ逢えるね、、、」


290: 母ちゃんのカブ : 2009/12/13(日) 21:47:58 ID:fPl/GTwK
俺は多分夢を見ていたんだと思う。
いつか見た光景だった。
あったかく柔らかい背中にしがみつきながら聞こえた懐かしい声。

「、、かし、、たかし、もうすぐ、お医者さんだからね、がんばられ、、」
「たかし、たかし、もうすぐ、お医者さんだからね、がんばられ!」

顔は見えないが、間違いなく母さんだった。
俺は強くしがみついた。

「母さんなの?俺、もう大丈夫だよ!今まで何処に行っていたの?」
「母さん、今日、部長に褒められたよ。期待の新人だってさ」
「母さん、初任給でこれ買ったんだけど母さんに似合うかな?」
「母ちゃん、晩ご飯はカレーにしてよ。お肉、高いから入れなくていいよ」
「母ちゃん、今度の授業参観は来れるの?どうして泣いているの?」
「ねぇ、聞いてる?ねぇ、かあちゃん、かあちゃん、、、ちゃ、、、、。」

目を覚ますと俺は病院の集中治療室のベッドにいた。


291 : 母ちゃんのカブ : 2009/12/13(日) 21:49:10 ID:fPl/GTwK
意識が戻ってしまえば、奇跡的に軽い打撲と擦り傷で済んだ事を医者に驚かれた。
念のため2日入院したが、その間に会社の上司や同僚らが見舞いに来た。

加害者側のサラリーマンは一度だけ顔を見せた後は
保険屋が代わりに事務的な手続きをしに来ただけだった。

退院後に警察に呼ばれたので所轄署へ行くと、
簡単な聴取とカブの引き取りの依頼をされた。
母さんのカブは変わり果てていた。

まるで俺の身代わりになった様にボロボロになっていた。
まるで俺を育てた引き替えにボロボロになった母さんそのものだった。

俺は母さんを2度失ってしまった。


292: 母ちゃんのカブ :2009/12/13(日) 21:49:58 ID:fPl/GTwK
退院してからも俺はしばらく会社を休んだ。
行く気になれなかった。
壊れたカブは事故相手の保険屋が新品に交換すると言ってきたが、断った。

もう、どうでもよくなってしまっていた
。このまま消えても誰も悲しまない。
自殺しても構わなかったが、それすらも面倒なだけだった。

流石に1週間が過ぎた頃には会社の部長が訪ねて来たが、
生返事だけして帰ってもらった。
部長は帰り際に「困った事があったら相談しなさい。」
と自宅の住所と電話番号のメモを渡してくれた。

メモを仕舞おうと電話台の引き出しを開けると、
母さんが入院中にくれたお守りが目にはいった。

ハンカチを切って縫い合わせたお守りの中には小さな手紙が入っていた。

あの日の病室、あの日の母さんの切ない笑顔を思い出した。


293: 母ちゃんのカブ : 2009/12/13(日) 21:51:06 ID:fPl/GTwK
お守りの中の手紙にはこう書かれてあった。

「たかしへ、母さんは先に天国へ行くけどごめんね。
でも母さんは消えてしまった訳ではありませんよ。
たかしが母さんを思い出した時には、
母さんは必ず、たかしのそばにいて、応援してますよ。
だから、がんばれ!」


ずいぶん無断欠勤をしたにも関わらず、会社の皆は優しく迎えてくれた。

俺が立ち直ってからのこの10年は、
仕事や結婚、育児など、慌ただしく過ぎ去ってしまった。

そして不景気のお陰でほんの少しだけ時間の余裕が出来た今、
2輪免許を取得しに自動車学校に通っている。

バイクに乗ることは妻に反対されたが、
免許を取ってもバイクを買わない、乗らない。
この2つを条件に押し切った。

皆さんは不思議がるだろうが、
俺は正式にバイクに2人乗りができる資格だけで良いのです。

いつしか年老いて、俺がこの世を去り、母さんへ逢いに行った時、
母さんと二人で雲の上でもツーリングしようかなと。そのための免許。

もちろん、タンデムシートには母さんを乗せて。



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